D・カーネギー『人を動かす』新装版
タイトル:『人を動かす』新装版
作者D・カーネギー 山口博【訳】
出版社名:創元社
初版年月日:1999年10月20日(読了本2012年11月10日第一版第七八刷)
読了日:2020年10月23日(金)
評価:80/100点
臨床心理士へのおすすめ度:☆☆☆☆☆
キーワード:重要感、同情(共感)、相手の立場に身を置く、ほめる
【著者について】
1888年、米国ミズーリ州の農家に生まれ、大学卒業後、雑誌記者、俳優、セールスパーソンなど雑多な職業を経て、弁論術や成人教育の講師となり、人間関係の先覚者として名をなす。(Amazon著者についてより)
【目次 contents】
part1 人を動かす三原則
- 盗人にも五分の理を認める
- 重要感を持たせる
- 人の立場に身を置く
part2 人に好かれる六原則
- 誠実な関心を寄せる
- 笑顔を忘れない
- 名前を覚える
- 聞き手にまわる
- 関心のありかを見ぬく
- 心からほめる
part3 人を説得する十二原則
- 議論を避ける
- 誤りを指摘しない
- 誤りを認める
- おだやかに話す
- “イエス”と答えられる問題を選ぶ
- しゃべらせる
- 思いつかせる
- 人の身になる
- 同情を持つ
- 美しい心情に呼びかける
- 演出を考える
- 対抗意識を刺激する
part4 人を変える九原則
- まずほめる
- 遠まわしに注意を与える
- 自分のあやまちを話す
- 命令をしない
- 顔をつぶさない
- わずかなことでもほめる
- 期待をかける
- 激励する
- 喜んで協力させる
付 幸福な家庭をつくる七原則
- 口やかましくいわない
- 長所を認める
- あら探しをしない
- ほめる
- ささやかな心づくしを怠らない
- 礼儀を守る正しい性の知識を持つ
あとがき
【読書動機】
古本屋にておすすめコーナーにあり、タイトルが気になって購入。臨床家は相手が動くのを待つ。待つということが仕事といっても過言ではないと私は感じている。しかしながら、相手が動きそうなときには、その行動へ効果的に導く術も必要なときがあるのではないかと考えていた。そのため、有益な情報が得られるのではないかと期待して購入に至った。(おすすめ値下がり本のコーナーに並べられていたが、値札が900円のままであり、そのことを店員に尋ねたところ、値下げ価格で大丈夫ですとその場で300円ほどに。Amazonの中古でもこの価格は安い)
【一言で紹介する】
どうすれば人は動くのか、そのことは、読み終えた後にまず動く読者自身がいることから実感してもらえるだろう。
【心に残った文章・表現をちょこっとだけ紹介】
p34フロイト
人間のあらゆる行動は、ふたつの動機から発する。すなわち、性の衝動と偉くなりたいという願望とがこれである。ジョン・デューイ教授も、(中略)人間の持つ最も根強い衝動は、”重要人物たらんと欲する欲求”だというのである。
p159
議論に勝つ最善の方法は、この世にただひとつしかないという結論に達した。その方法とは――議論を避けることだった。毒蛇や地震を避けるように議論を避けるのだ。「議論に負けても、その人の意見は変わらない」。
p294サンテグジュペリ
「相手の自己評価を傷つけ、自己嫌悪におちいらせるようなことをいったり、したりする権利はわたしにはない。たいせつなことは、相手をわたしがどう評価するかではなくて、相手が自分自身をどう評価するかである。相手の人間としての尊厳を傷つけることは犯罪なのだ」。
【感想】
訳が綺麗だからか、作者の文才ゆえか、非常に読みやすい。難しい言葉もほとんど出てこず、厚みはあるがその大半が各トピックに関する実例話である。読書の苦手な方でも読みきれるだろう。
目次を振り返ると、日常での至極当たり前のことをトピックとして提示しているように感じられた。しかしながら、我々はその当たり前のことにこころを動かされるとわかっていながらも、自らが行なうとなると、途端に疎かにしがちであると感じた。日常のひとつひとつを丁寧に行なっていくことが、人を動かすのかもしれない。
実例話が多く、有名な心理学者、実業家などの言葉も平易な形で引用されているため、トピックとして挙げられていることの重要性を理解しやすい。一方でうまくいった話しばかりであるため、そううまくいかないこともあるであろうし、なにより実例話として挙げられるその人物の言い回しなどが(センスがあって)うますぎるというのもあるかもしれない。また、海外ならではの、といった感じがするのは、私だけだろうか。
ざっくりと学んだこと。人が動くとき、それは自身の身や立場、置かれた状況を相手に理解され・受け止められ、そういったことを通して、自己がひとりの人間として尊重され、存在の重要感を内に感じさせられたときであろう。
【どういった人におすすめか】
実例として多く用いられているように、ビジネスマン、営業職といった、言ってしまえば人のこころを動かすことを仕事にしている人には特におすすめである。しかしながら、本書に記載されていることは、相手との友好的な関係を築くための、すなわちコミュニケーションにおける重要なエッセンスであると考えられうるため、上記職業人以外の、多くの人が読んでも非常にためになると思われる。ベストセラーになるのもそのためであろう。
【次に手に取りたい分野の本、書名】
ビジネス、リーダーシップ